草木も眠る丑三つ時、静寂に満ちた神社の境内で人知れぬ戦いが終わろうとしていた。
石畳を挟んで、身の半分を失った異形……鬼。
それに相対する巫女は、片膝をついていた。
「ぐぐぐ、さすがは退魔巫女よの……この儂を此処まで追い詰めるとは」
「くっ……一歩、及ばずか」
「誇っても良いぞ、人間……貴様は儂に立ち向かったものの中で、最上の術者よ」
半身を失ってなお壮健な鬼の声色が優しげなものに変わる。
だが、それは悪意に満ちたものだった。
「よくよく見れば、貴様は美しい。白磁の肌、なめらかな唇、そして豊満な体」
「喰うのは楽だが、それよりも愉快なものがある」
「……これから、貴様は儂の器となるのだ」
巫女……柚鈴(ゆず)は身を震わせた。それは死の恐怖より深い恐怖、魂の陵辱を意味しているからだ。
「……虫酸が走る!貴様に渡すくらいなら、今この場で……!」
引き抜いた札は半ば焦げ付いており、これまでの戦いの荒々しさを思わせる。
柚鈴がそれを我が身に受けんとしたとき。
「くくく、儂の所有物を勝手に壊させるわけにはいくまいて」
「!!!」
手が動かない。見れば、後ろから腕を掴まれていた。
その主は鬼に魅入られ、意思を無くした犠牲者だった。
鬼が煙をまといながら、にたりと笑った。その目は悪意で燃える太陽のように爛々と赤く輝いていた。
「……だが、いかに強いとはいえ、人のおなごよ、戦の機微には疎いなあ。ひひ、初めから宿主を忍ばせておいたのよ」
「ぐ、は、離せ!!離してっ……!!」
宿主は生気のない顔で、だが万力のような力で柚鈴に後ろから絡みついていた。
鬼は音を立てずに、ゆっくりと柚鈴へと近寄ると、黒い霧へと身を変じた。
「儂を受け入れよ」
ずぞ、ぞぞぞぞぞぞぞ……
黒い霧が柚鈴の可愛らしい唇を割り、侵入する。
柚鈴は、自らの精神に差し込まれたどす黒い塊を感じた。
妬み、恨み、欲望でできた塊が喉を通過し、自らに溶け込んでくる。
それは半刻もしないうちに、彼女自身に成り代わるだろう。
柚鈴は怖気をふるい、自らの心の形をつぶさに見つめることで明鏡止水の術を成し、精神への侵攻の楔となした。
『ぐぐ、この窮地においても折れぬか……だが、それでこそ堕とし甲斐があるというもの』
残念と愉悦の混じった声が柚鈴の脳裏を揺らす。
『次は傀儡を使うとしようか』
柚鈴に絡みついていた、宿主の男が手を離し、巫女装束の上からもたわわな存在感を示している、柚鈴の双丘へと手を伸ばした。
男は着物の合わせを乱暴に広げ、サラシを巻いただけの柚鈴の胸を露わにした。
柚鈴は羞恥に顔を赤らめ、しかし、確かな芯の強さで男を睨みつけた。
「おお、怖や怖や」
男はせせら笑い、最後の守りのサラシを引きちぎった。
柚鈴の形の良い胸が震えた。
「よい見栄えじゃ。これほどの立派なものを持つならば、男どもは皆注目したろうなあ。そして、その記憶を持って、竿を扱いたろう。くく、清純な巫女を脳裏で犯す、浅ましき……ひっひっ、その女が自らの平穏を人知れず守っておるというのにのう」
「……こ、の、下衆、んぁ!」
男の無骨な指が柚鈴の朱鷺色をした乳首を弾いた。
ただそれだけだというのに、柚鈴はぞくりと染み渡る衝撃に、鼻にかかった声を漏らした。
なんだ、今のは、と彼女が自問した。
「ようやく効いてきたかえ……儂の現し身は淫糜の化身よ、一吸いすればお主のようなおぼこどころか、赤子とて股を開くわ」
柚鈴の乳首は淫らな予感に期待するかのように、そそり立っていた。
あの指が欲しいと、じんじんと疼いている。
「ほれ、もうひと扱きじゃ。欲しかろう、欲しかろう」
「……っあ!ん、ひんっ!!」
男の指が、くりくりと乳首を潰し、こね回す。
その度に、柚鈴の脳裏にフラッシュが走り、甘い予感に屈しそうになる。
つう、と一筋、口元から鮮血が垂れた。
唇を噛み、柚鈴はその衝動に抗った。
「ほう、これでも堕ちぬかえ……では」
柚鈴の全身はまるで性感帯のように熱く火照っていた。
男の手が、胸を下り、臍へと到達する。
そのかそけき歩みが肌に触れるたびに、柚鈴は股間に甘い痺れを得て、身をのけぞらせ、声を漏らしかける。
口の中に満ちた鉄じみた味だけが、浮かれた体を繋ぎ止める碇であった。
「ほほほ、まだ終わりではないぞ……まったく、底なしに欲張りな女体よ、お主のようなおぼこには勿体ない……ますます欲しゅうなったわ」
その手が袴を落とし、柚鈴の鼠径部を捉えようとした。
その瞬間、男の体が強烈な電撃を受けたかのようにびくりと痙攣した。
『ぎっ……?!』
「掛かった……な。貴様のような下衆がするようなことは、お見通し、だ」
露わとなった股には、朱書きの札が張り付いていた。
男の体は、そこから手が離せず、跳ねるようにのけぞった。
『ぎ、がががががが……くふ、お主こそ、この男の面をよく見るがいい』
雲にけぶる夜空を割って、つかの間月明かりが一筋差し込んだ。
柚鈴は露わになった男の顔に、息を呑んだ。
「し、新庄……くん!!」
『お主、この男に恋心を抱いておろう。ひひ、儂はな、前々からお主の体を狙っておったのよ……少し尻尾を見せてやったら、のこのこと出てきおって』
「……どうして、どうしてこんなところに、いるのよ!」
『その術、解かねばこの男は死ぬぞ。儂とともになあ!』
「騙されないわ、こんな手で……こんな手を使っても、私は!」
涙を飲み、半ば叫びになりながら、柚鈴は印を切った。
それは、封に触れたものを滅殺する必殺の術式。
無色の衝撃が静寂のしじまを明るく染め上げ、男はたちまち灰と変じて砕け散った。
「……はあ、あ、く……」
体の前面をほとんどはだけられたまま、柚鈴は荒い呼吸をした。
もう、ほとんどの霊力を使い切り、身体中に重りを括り付けられたかのような疲労感を味わっていた。
脳裏を汚す、あの毒の言葉ももう聞こえない。
「やった……」
「と、思ったじゃろ?」
意図しない言葉が自らの唇から紡がれ、柚鈴は背筋から血の気が引いた。
「私は待っていたのよ、お主が全力を振り絞った術を使う時をなあ」
「あ、あ……」
「くひ、くひひ……わかる、わかるぞ、お主の記憶……幼少の思い出、憧れ……不幸よのう、このような身の上に生まれずば、普通のおなごとして幸せになったろうに」
「やめ……やめ、て、私の中から、」
「小さな頃から過酷な修行漬け、学校の友に誘われても遊びにも行けず」
「やめなさい!!」
「容赦のない扱きに、柔肌を傷つかせ」
「母は厳しかったろう?自らの子ではなく、術を伝うものとしてしか、お主を見なかった」
「やめ」
「色恋も禁じられ」
「やっ!!」
「自ら、恋文を破り捨て」
「……私を覗かないで!!」
「私が自由にしてやろう」
「助平なお主の体に享楽を教え込んでやろう」
「ぐっ、ぁ……私は屈しない、屈したり……」
柚鈴の細やかな指が、鼠径部に貼られた札をたやすく破り捨てた。
露わになった割れ目に、そっと指が這いよる。
「屈したり、しない!」
表側の唇の裏へと人差し指が忍び込んだ。
「私は、柚鈴、退魔巫女の柚鈴だ!」
鍛冶屋の金床のように燃え上がるクリトリスを撫で上げる。
「私は、お前になんか、負けない!」
そのまま、膣の入り口をこすりあげる。
「お前になんか……」
すでに瑞々しく潤っている秘所を、人差し指が扱くように出入りした。こぼれ落ちた愛液が、地面を黒く染める。
「負け……」
一本の指をしゃぶるように強く締め付ける。
「私は…………」
淫糜な予感に張り詰めていた乳首をもう片方の手で撫で上げながら、一本では足りずに、もう一本の指を差し入れる。
「私は……ふひっ」
「負けちゃいましたあ♡」
「どうしてこんな気持ちいいことをしなかったんだろ♡」
「もう、完全に消えて、淫汁と一緒に流れちゃいました♡」
柚鈴はちゅぐちゅぐと、わざと音を立てておまんこをかき回した。
「ひっ、ひっ、はひっ!これからは、儂のメインボディとしてこのスケベな体を存分に使ってもらいまーす♡」
「小さい頃から修行に明け暮れて、女の子の楽しみも知らないまま、人生終了させられちゃいましたあ♡」
「ぅぅうっ、きひ!来た、きたきたきたきたきたきた、イクゥ!」
肉壺をかき回す指遣いはすでに荒々しく、その体は完全に女性の喜びに打ち震えていた。
その体が、強く張った。
「ひぃやあああああああ!!!♡!!♡!!」
ぷしゃああああ……
境内の神木の根元めがけて、股間から弧を描いて汁が飛んだ。
「……ふう、はあ…、ふう……」
柚鈴はぬちゃりと牝穴から指を引き抜くと、荒い息の合間にそれをしゃぶった。
「この体ならば、あっという間に儂を復活させるに足る精を集め終わるじゃろうな、ふひ」
「これからよろしくな、柚鈴ちゃん♡」