遠く、放課後の、生徒の帰宅を促す放送が流れている。
僕は、声をかけようとして、思いとどまった。
屋上に続く踊り場で、二人の女子生徒が向かい合っている。
一人は僕が探していた、幼馴染の宮坂かえで(みやさか かえで)。
ぴょこぴょこと跳ねるポニーテールが印象的な、良くも悪くも活動的な少女である。
対して、もう一人は。見覚えはあったのだが、僕はすぐに思い出せず、目をこする。
……思い出した。一年の時、図書委員会で会った二年生……今は三年生の古永透(ふるなが とおる)先輩だ。
鳥の濡れ羽を思わせる黒髪を編み込みにしている、謎めいた雰囲気のある美人だ。
思えば、委員会でも殆ど喋らなかった様に思う。
僕自身、言葉を交わした思い出もなく、遠くから眺めているだけの人間だった。
「……それで、宮坂さん、であっているかしら。私に用事というのは?」
「さすが、先輩ですね。宮坂かえではあなたに一度しか会ったことがないのに」
「用がないなら、失礼するけれど。」
踵を返しかけ先輩の腕を、かえでが握った。
「だめですよ、先輩」
かえでは、にこやかにそう言って、先輩を引き寄せた。
先輩は振りほどこうと腕を振ったのだが、かえでにねじ伏せられてしまった。
(かえでの奴、何やってんだ……)
僕は訝しみ、割って入ろうと考えた。
「この体、もうボロボロなんです。次は、先輩みたいな無愛想なタイプがいいって決めていましたから……この体は知り合いが多すぎて、演じるのが大変で」
「……えっ?」
かえでが妖艶に微笑む。
幼馴染が見せたこれまでに見たことのない表情に、僕は心臓をつかまれたかのような感覚に陥り、言葉を詰まらせた。
ごぼぼっ。
次の瞬間、かえでの口からスライムの塊がせりあがってきた。
それは屋上に続くドアの窓から差し込む西日にてらてらと赤黒く輝きながら、先輩の口をこじ開けた。
かえでのあの小柄な体のどこにこれだけの量が入っていたのか、という疑問が生まれたが、それはすぐに氷解した。
かえでは萎んでいた。幼いころ、近所のガキ大将に男勝りのパンチを食らわせた腕が、まるで空気の抜けた風船のようにペラペラになっていた。
僕は、あまりのことに一歩二歩とたじろいた。
"それ"は先輩の口に限らず、鼻、目、耳、ありとあらゆる穴から侵入した。
「お"ぼっ」
それが先輩に収まりきるまで、ほんの数秒しかかからなかった。
「あ、か……?ぅあ……ごぼっ」
先輩は、膝立ちになってがたがたと震えだした。
虚ろなガラス玉のようになった目が、西日をギラリと反射している。
(なんで、なんだ、今の……!!)
心臓が早鐘を打つ。かえでが萎み、先輩に入った。
それだけのことを飲み込むこともできず、ただ危機感に駆られていた。
だからなのか。後じさった時に足元に転がっていたバケツを蹴り飛ばしてしまった。
「……!!」
うずくまった先輩が立ち上がり、こっちを見た。
白い肌、ととのったあごのライン、儚げでいて力のある目がこちらを見ていた。
「あら、見ていたのね」
先輩はごぼごぼ低い唸りを立てながらほほ笑んだ。
よろめきながらも、一歩ごとに確かになっていく足取りでこちらに近づいてくる。
だというのに、蛇に見竦められたカエルのように僕は動けないでいた。
いつの間にか、息がかかるほどの距離になっていた。
かすかなシャンプーの香りが、鼻腔をくすぐる。
先輩が手を伸ばし……僕の股間に触れた。その瞬間に僕は、自分がはち切れんばかりに勃起していたことに気づいた。
「あたしが死んじゃったってのに、いけない子」
前半はかえでの声で、後半は先輩の冷たいナイフのような声で囁いた。
「まあ、いいわ。協力者が要ると思っていたのよ。一人で演じるのも、なかなか骨だから」
先輩は静かに、熱くなった僕の股間を撫でた。
「だ、誰が、お前の……」
だって、"お前"は、かえでと先輩を……
「じゃあ、死ぬのね」
それはくすくすと笑った。
僕はごくりと唾を飲んだ。それは、恐ろしかったからだけではなく、その姿が堪らなく、堪らなく……
「……一つ、条件があります」
「何かしら」
堪らなく、美しく思えたから。
これが欲しいと思ってしまったから。
「僕の……僕のものに、なってください」
だから、僕は言った。
それは笑った。狂ったように髪を振り乱して、腹を抱えて笑った。
「ーーははははははははははははははは!!何を、何を言い出すかと思えば、君のものに?」
「君の目は節穴か?目の前で幼馴染と先輩を俺に食われて、気でも狂ったか?」
僕もつられてぎこちなく笑った。
「そう、ですね……気が狂ったのかもしれません。貴女が美しく見えてしまいましたから」
それはにいまりと目を細めて、微笑んだ。
「いいだろう。俺の協力者になるのであれば、それくらいでなければなあ」
それは、先輩のスカートをたくし上げ、白い、色気のないショーツを横にずらした。
まばらに生える局部の毛を丸見えにして、先輩は蠱惑的に笑った。
「この女を支配したら、小腹がすいたわ。おやつをいただけないかしら」
僕の分身は、ズボンの中でいよいよ痛いぐらいに張り詰めた。
多分、僕ははいと答えたと思った。
僕は、先輩の体を抱きしめた。華奢でいて、ほのかに柔らかい。
無機質な花の香りーーむせ返るほどの先輩の匂いがした。
「おいおい、こんなに引っ付いちまったら、ヤれねえだろお。童貞か、お前」
先輩が喉に引っかかる笑いを漏らす。
「察しの通り、僕は童貞だ。これまで、かえでの他の女の子の手を握ったこともなかった」
「じゃあ、俺がリードしてやるか。おい、顔上げろよ」
僕は言われるがままに顔を上げた。
先輩の整った顔が、そこへ近づき、僕の口をこじ開けた。
「……んむ!」
ぬらりと濡れたものが口の中を這い回ってくる。
僕は、それに舌を絡めて、同調した。
頬が熱くなるのを感じた。
「……ぷ、はっ」
ふいに顔を離された。
二人の間で、よだれの弧が生まれ、先輩の舌に絡め取られていった。
僕は、先ほどとは違う胸の高鳴りを覚えた。
「今度は、下ね」
先輩のしなやかな手が、流れるように僕のズボンのファスナーを下げた。
解き放たれた陰茎が、パンツの穴から空気に触れる。
「童貞野郎のくせに、なかなか立派じゃねえか……くひひ。これは少しは楽しめそうだなァ」
先輩はせせら笑いながら僕の股間にかがみこむと、さらり、右手で髪を後ろに流し、僕の息子を咥えこんだ。
「うっ……」
先輩はそのまま、それをしゃぶるように舌を絡めながら出し入れした。
こってりと唾液を塗り付けられ、敏感になったそこを、裏筋から舌先で攻めてくる。
「はむ……ふぅん、ちゅぱ、んむ」
僕は膝裏が震え、腰が抜けそうな快感にたまらず掃除箱に寄り掛かった。
あっという間に、むずついたそこが熱くなって、睾丸が縮むのが分かった。
「……で、出る……!!」
たぱ、たぱぱっ
これまで見たこともないような量の精液が、先輩の白い顔をまだらに染めた。
先輩は、ほう、と息をつき、鼻筋にかかったそれを指ですくい、舐めとった。
「うはっ、特濃ッ♡」
おいしそうにそれを舐めとると、僕の体を後ろへと押しやった。
その体の細さからは想像できない力で、僕は踊り場の横の段ボールの上に押し倒された。
「次は、こっちにちょうだい」
先輩はスカートも脱がずに、ショーツを押し下げた。
ショーツと秘所の間から、つうっとしずくが伝っているのが分かった。
「おほっこのメス犬、ちょっとちんぽしゃぶったぐらいでぐしゃぐしゃに濡れやがった♡ ひょっとしてお前ら、相性いいのかもなあ?」
その光景が、一度は果てた僕の股間を再びいきり立たせる。
先輩はそのしなやかな指で、僕のいちもつをつかむと、ぴたりと自らの秘所にあてがった。じんわりとした熱と、湿り気が伝わってくる。
そして、息を吐き、僕の股間の上に跨った。
ずちゅんっ
一瞬で僕の先が生暖かいものに包まれた。同時に何か、張り詰めたものを突き抜けた感触がした。
「はは、こいつ処女かよ。そこまではまだ読み取れなかったなぁっ」
先輩はそれを気にせず、腰をグラインドさせる。ちゅぐちゅぐと音を立てて、僕の息子が先輩の股間から見え隠れした。
「うっ……」
先輩は動けずにいる僕の頭の後ろに手を回し、ぎゅっと抱きしめた。
「どうだ?初めての女の中はよぉ?童貞君♡」
「で、出そうです……!」
「おう、出しちまえよ、どうせ子宮の中も俺でいっぱいで孕めやしないんだから!」
白い火花が散った、としか表現できない。目の前が真っ白になり、くらくらするほどの快感で僕の体はびくりとはねた。
これが、先輩の……
「よくできましたねえ……」
にたり、と先輩は僕の頭をかき抱きながら笑う。
僕もつられて、笑った、ような気がする。
……先輩のそんなニタニタ笑いが、急に真っ白に漂白された。
「……?」
そして、そのまま頭を抱えた。
ぬぽり、急に起き上がったせいで、先輩のおまんこから僕のちんぽが抜ける。
「あ……ぐ、何、なの……」
「せん、ぱい……」
目じりに涙を浮かべ、先輩は空気を求めてあえぐようにうめいた。
僕はそれを見て、不思議と胸が痛まないことに疑問を覚えなかった。
「私……頭ががんがんして、みなせ、くん?助けぐぎっ」
ごぼぼごぼっ!
先輩の口からスライムが逆流し、先輩の言葉を途切れさせた。
先輩の肢体がぴんと緊張し、……そして、弛緩した。
口からあふれたスライムが、先輩の耳の穴を貫いて、頭をかき乱しているのだ。
しばらく、そのままごぼごぼと呼吸が漏れてきたが、やがてそれも収まり。
「……ふう、強情な女だぜ。この状態で、俺から逃れやがった」
髪をかき上げ、先輩……ではない、それが笑う。
「だが、おかげでようやくこいつの全てを読み終えたぜ。これで、もうこの体は俺のもんだ」
「何、呆けた顔をしてやがる。次は、そうだな、お前が動いてみろよ。まだ俺はイってねえんだ」
「わかった」
先輩が僕の上から退き、僕の前にお尻と濡れそぼったおまんこを向けて、前かがみになる。
思えば、この時、僕は逃げることができた。もっと前からも。
「来て。私のおまんこが、切なくて泣いているの……なんてなっ、はは」
僕は起き上がると、ぱんぱんに怒張したちんぽを先輩の後ろから侵入させた。
先ほどよりも、深く根元が埋まっていくのが分かる。
「ああ、ああ、良いぜ、子宮の奥まで当たっていやがる♡」
僕は先輩の腰をつかみ、股間を何度も打ち付けた。
そのたびに淫靡な水音と、頭の中で火花が散る。そして、胸の内が満たされるのを感じた。
かえでのことも、先輩のことも、もうどうでもいい。
「お"ほっ!透まんこ、奥にキスされてキュンキュンしちゃってるぅ♡ いぎっ、いくいくいくいくぅ……!!」
先輩の奥がきゅうと強く僕を絞り上げた。
僕はたまらずぶちまけた。そして脱力。
「はあっ……はあっ……」
「なかなか美味しいザーメンだったぜ、元童貞君よお」
僕は度重なる酷使でぐったりした自分のいちもつを、先輩の中から抜いた。
「水瀬、水瀬 和樹(みなせかずき)です。僕の名前は」
「そうかい。こいつも、下の名前は知らなかったようだな」
先輩は、股間から垂れる精液を気にせず、そのまま片足にかかったままのショーツをはきなおした。
「あの」
「なんだよ」
「先輩のふり、ちゃんとしてくださいね」
「これからよろしくね、水瀬君」
「お付き合いしますよ、先輩」
先輩はそう言って、ほほ笑んだ。
夕日に照らされて陰影の刻まれたその姿は、僕にまがまがしくも、どこか神々しいものを想像させた。